線香の火の消し方にも実はやって良いこと、悪いことがある。
線香についた火は、振ると普通消えるけれど、それを知っているだけだと、思わぬ失敗をしてしまう。
同じ振る方法でも、 その中にしっかりと正しい消し方、悪い消し方ががある。
それとともに線香には消し方ひとつにもまだ大事なこと、忘れてはならないこともあったりするから奥が深いものだ。
振る方法と一緒にこの二つ、大事なのでご紹介してみたい。
線香の消し方は真下に振るのがベスト
法事とか葬式の席で、手に持った線香に火がついたままなとき、それをどうやって消したら良いかというと、やっぱり振るというやり方になる。
でももっと正しく言うと、
「垂直に、そして真下に向かってサッと振る」
のがベストな消し方だ。
これが一つ目に大事なことなので、ぜひ覚えていただきたい。
よく同じ振る消し方でも、手の中の線香を持ったまま左右に振って消そうとする人がいる。
消えるかもしれないが、こうしてしまうと灰が散る。
そして下手をすれば火の消えないままでいる灰が下に落ち、畳を焦がしたりしてしまうのだ。
ところが、下に向かってちょっと振り下ろすくらいで火はちゃんと消えてくれるし、然も灰も飛ばないで線香の頭に残ったままになる。
すごく合理的なのだ。
なぜ吹いて火を消すのがダメなのか?
ここでもう一つ、振る消し方の他によく見かけるのが線香の火を吹いて消す、という方法。
口で息を吹いて消す人もいるけれど、実はこうしてしまうと息の中に混じったいろいろな体内の“不純物”を、清浄な線香にかけることになるのでNG。
そして付け加えれば、仏教の世界では人間はこの世に生きて罪を重ねているから、汚れているものとされている。
その人間から出たもので、死んで清浄になっている人の魂と交流するための線香を消すのは「けしからん」となってしまうのだ。
私も子どのうちには知らないでいたし、両親もあまりこだわらないタイプの人間だったのでその辺の作法というのは天然っぽく過ごしてきた。
でも大人になって仕事に就くと、それなりに社交の場で法事などとも関わりができてきたりする。
その中でやっぱり本来は良くないことだ、と教えられたし、同時に「下に振る」やり方も初めて知った。
左手で線香を持ってはいけない!「右手の法則」とは?
そしてもう一つ、知っておくべき大事なことがある。
下に向かって振る消し方をしたとしても、線香を持つべき手は必ず右手にする、ということ。
来れもしっかり押さえておいていただきたい。
この理由はやっぱり仏教の由来と重なるのだけれど、元々仏教の生まれたインドというのは、習慣として
・右手を「清浄、神聖」なもの、仏が宿るもの
・左手は「不浄」なもの
という考え方がある。
例えば現在でもインドの食事習慣は手に食べ物を直接取って口に運ぶ、という食べ方が多いとされているけれど、ヒンドゥー教など古くからの習慣が今でも根強く残っている場所では、左手で決して食事を取らないということだ。
ただ、私自身は仏教自体には本来あれは清い、これは汚れている、という考え方はないとも聞いている。
けれど、それでもこういうインド式の習慣が何気に仏教の作法にに入っているだけは確かだ。
だからこの二つを上手く結び合わせようと、昔から偉いお坊さんたちが頭をひねってルールを作ったようだ。
あくまで私の個人的な推測だけれど。笑
でも、そんなわけだからこんな作法が言われている。
「手に持って振る消し方をするにしても、不浄な左手で清浄な線香を持ってはいけない。右手で必ず持つこと」。
これが二つ目に大事なことになる。
実際、数珠を持つのは左手が正しい、という作法もこんなところから来ていたりする。
数珠には魔除け、邪気を払う力があるとされているけれど、左手に持つことによって、その神聖な力で、左手の不浄な汚れを清めることができる。
そうすることで初めて仏様と向き合わなくてはならない、というわけだ。
だから、ブレスレット型の数珠を巻く手首も左手になる。
手で扇いで消すのはどう?
このほか、手で扇いで消そうとする人も多いようだ。
でも今お伝えしたとおり、手に持っている線香をもう一方の手で扇いで消すとなると、当然普通なら持つ手は左手になってしまう。
“不浄な”左手に持つのは上にお伝えした「真下に振る方法」と同じく、やってはいけないことだ。
そして振るよりも火が消えにくい。
消えても灰が散ることも多い。
だから左右に振るのと同じく、やめた方が良い。
「じゃあ、お墓の線香立てや線香置きについている線香の火の消し方はどうなるの?」
という疑問を持つ方も多いだろう。
その場合でもまず押さえていただきたいのは、
「そういうところにあげる前に、しっかり火を消しておく」
ということだ。
そしてその消し方は、もちろんこれまでお伝えしてきた「 振る消し方」が当てはまる。
でも、最後に注意をお伝えしてみたいけれど、こういう外のお墓では、こういう正しい消し方をしていてもダメなときがある。
私はこの方法をお墓の前で試したときに失敗して、自分の手に灰が落ちて軽いやけどを負ったことがある。
手に持っていた線香の灰が、 振る前に風でこぼれて手の甲に落ちてきてしまったのだ。
風のある日は燃えるのが早いし、線香のやけどはヒリヒリ痛くてかなわない。苦笑
あんなに小さい火でも、基本的にむき出しの火を手で直に扱うことになる。
そのためこんなリスクもあったりするから、消し方などには用心していただきたい。
特に風のある日にお墓参りに行くときには、ぜひご注意を。
山口昌子(やまぐち あきこ)